さらば階級制

サポートセンターは階級制に基づく人事を行わない。

 

現在、企業などの組織は職の構成、命令系統、従業員の登用や待遇を以下のようなものにしている。

 

・組織は職を階級とし、部署を管理するものを生産現場のものの上位に、組織の大きな部分を管理するものを小さな部分を管理するものの上位に置く。

・組織は事業の責任者を頂点とし、生産現場の係を底辺とするピラミッドの構造を持つ。

・従業員は属する部署の管理者の命令に従い、管理下の部署や係に命令しながら活動する。

・組織は従業員に職に対応する労働の報酬を支払い、従業員は階級が上であるほど高額の報酬を受け取る。

・組織は優れた業績を上げた従業員を評価して進級させ、一階級上の職に就かせる。

・従業員は組織に入った時に生産現場の職に就き、進級を繰り返しながら次第に組織の大きな部分を管理する職に就いていく。

 

要するに、多くの組織は階級制を採用している。

 

サポートセンターは階級制を採用せず、ピラミッドの構造を持たない。サポートセンターは職の区別や命令系統の整備を多くの組織と同様に行う。しかし、サポートセンターは職と従業員の労働の報酬を対応させたり、業績を上げた従業員を進級させたりしない。

 

サポートセンターでは職は生産現場のものも、部署を管理するものも階級でなく、役割である。サポートセンターは従業員にそれぞれの意志に対応する職を与える。人は自身がその意義を信じる何かを実現するために活動する時に最大の努力を行い、優れた業績を上げられるからである。サポートセンターは部署の管理をすでに行っている活動の目標や計画を見直した者、新しい商品、サービスの新しい機能の開発や新しい販路の開拓などを企画した者に任せる。サポートセンターは活動を刷新したり、新しく起こしたりするために人を部署の管理者とする。サポートセンターは意志のある者に職を与えることによって社会の要求を満たすために行うべきことを行っていく。

 

サポートセンターはその職が生産現場のものであるか、部署を管理するものであるかに拘らず、従業員にそれぞれの業績に応じた労働の報酬を支払う。サポートセンターは生産現場の係や組織の小さな部分の管理者が優れた業績を上げれば彼に高額の報酬を支払う。サポートセンターは組織の大きな部分の管理者が並の業績しか上げなければ彼に高額の報酬を支払わない。

 

サポートセンターはサポーターをサービスの利用者に評価してもらい、彼の労働の報酬を決定する際、それを参考にする。サポーターの提供するサービスの出来を最もよく知るのは彼の支援を受けるサービスの利用者である。だから、サービスの利用者がサポーターを最も正しく評価できる。サポートセンターがサービスの利用者によるサポーターの評価を実施すれば、サポーターは利用者にとって最良のサービスを検討し、提供するようになる。

 

サポートセンターを運営する会社も役員の登用や待遇を彼の意志や業績に対応させて行う。サポートセンターを運営する会社の役員会は相応しい目標を掲げ、社会に利益を与える意志を示した一部の役員を知的支援事業の責任者とし、サポートセンターの実際の運営に当たらせる。サポートセンターを運営する会社の株主は知的支援事業の責任者の労働の報酬を彼の業績に応じて決定する。株主は知的支援事業の責任者の労働の報酬をサポートセンターの従業員のものと比べて高額にすべきでない。

 

企業などの組織は階級制の採用をやめるべきである。多くの組織は階級制を広く採用されている慣行として信頼して採用しているのかもしれない。しかし、階級制の採用は組織にとって次の点で有害である。

 

第一に、組織は階級制を採用すると先に入った者が後に入った者から成果を奪う不正を手伝うことになる。多くの従業員は組織が階級制を採用すると、業績を上げた者の進級が約束されていると思い込む。しかし実際は組織は餌をちらつかせたり、競争させたりすることによって彼らを業績を上げるように仕向けているにすぎない。そして、先に組織に入って高い階級に居座る者は他の者たちが業績を上げ、事業の収入が生じると、そこから自身の労働の報酬として多すぎる分け前を受け取る。企業などの組織はこのような一部の者の不正の手段となる階級制を採用すべきでない。

 

第二に、組織は階級制を採用すると進歩しなくなり、成果を上げられなくなる。現在、多くの組織が業績を上げた従業員を進級させて大小の部署の管理者とし、彼の責任を大きくしている。それらの組織は人頼みの体質を持ち、部署や組織そのものの中心の役割をなるべく優れた働きを示す者に与えることによって成果を上げようと試みる。しかし、それは無駄である。組織は何よりも物事を行う方法を刷新する物やサービスを送り出すことによって成果を上げる。

 

それは日本海軍が第二次大戦中にいち早く海戦の戦術を航空機を主力とするものへ転換したことに似ている。大戦が始まってしばらくの間、当事国の軍人たちは歴史が浅く、実績の少なかった航空機を過小評価していた。多くの海軍軍人は過去の海戦から攻撃力と防御力の高い軍艦を使えば敵の軍艦を破れるという教訓を得、大きな主砲と厚い装甲を持つ戦艦を主力と見なした。彼らは航空機と母艦を巡洋艦と共に速力を生かして敵の動きを探る前衛と見なし、敵の前衛と交戦する力しか持たないと評価した。

 

例外的に、イギリスや日本の海軍は航空機の強さを洞察し、それに大役を与えた。前者はイタリアのタラント港を、後者はハワイの真珠湾を空母部隊によって攻撃する計画を立て、実行した。それらの作戦やその後に行われたマレー沖海戦は魚雷や爆弾を放つ航空機の部隊が対空砲火を行う戦艦などの軍艦の集団を粉砕する結果に終わった。航空機の強さは明らかになり、日本とアメリカの海軍は空母部隊による海戦を行って勢力を争うようになった。航空機が海戦の主力になると、戦闘機は敵の雷撃機や爆撃機を撃墜して軍艦を守ったり、敵の戦闘機を撃墜して雷撃機や爆撃機を援護したりする兵器として重要性を増した。

 

他方、戦艦はほとんど無用の長物になった。戦艦は主砲の射程が航空機の行動半径よりも短かったため、敵の軍艦の攻撃に参加できなかった。また、戦艦は主砲を撃つものと認識され続けたり、速力が不足気味であったりしたため、大部分は対空砲による空母の護衛を務められなかった。

 

企業などの組織は第二次大戦の時期の航空機のように物事を行う方法を刷新する物やサービスを送り出すために人に意志に対応する職を与えるべきである。イギリスや日本の海軍にとって、タラント港や真珠湾を本拠とする相手国の軍艦を排除することは戦略を遂行する上でとても重要であった。しかし、それらの軍港は厳重に防備され、敵の軍艦を寄せ付けなかった。そこで、彼らは航空機と母艦に機動力を発揮させて奇襲するという意外な方法を実践してそれを成し遂げた。(ただし、日本海軍は真珠湾に居合わせなかったアメリカの空母を打ち損じた。)

 

同様に、組織は解決すべき一見困難な課題の解決を図ることによって物事を行う方法を柔軟に考え出すことができる。それならば、組織は目指す結果を収めるための足掛かりとなることの実現を望む者に上げた業績を問うことなく、格好の機会と必要な権限の付随する職を与えて積極的に課題に向き合うべきである。

現在のように、組織はただ従業員に働いて業績を上げることを要求すると解決すべき課題に向き合うことも、その解決策を考え出すこともできない。つまり、組織は階級制を採用すると戦艦を主力と見なした軍人たちのように進歩せずに慣習に従うようになる。

 

ただし、自身の裁量によって組織の行動を決定する幹部職員は物事を行う方法を新しく考え出し、その実践に取り組むことがある。山本五十六は空母部隊による真珠湾の攻撃を思い描き、断行して航空機を主力とする海戦の戦術の完成度を高めた。

 

また、物事を行う方法を新しく考え出した者はそれを実践するために新しい組織を作ることがある。ウィリアム・ミッチェルは航空機の性能を生かした軍事行動をとることを思い描き、そのために陸軍や海軍から独立した空軍を作ることを主張した。(アメリカは1947年に空軍を独立させた。)一部の組織はそのような幹部職員や創業者がいるため、階級制を採用しているにも拘らず、有用な物やサービスを生み出したり、物やサービスの新しい用途を作り出したりする。

 

そして、慣習に従う組織の供給するものは戦艦が航空機に海戦の主力の地位を譲ったように新しい方法を実践する組織の送り出すものにとって代わられる。組織が時代遅れの存在となり、衰退するのはしばしば階級制を採用して慣習に従い、幹部職員も新しい方法の実践に取り組まないことに原因がある。

 

組織が階級制を採用すると、従業員は業績を上げて進級することを追求するようになり、しっかり戦略を立てて行動しなくなる。企業などの組織は進歩することを妨げ、成果を上げることを困難にする階級制を採用すべきでない。

 

知的支援事業の責任者を務める役員や知的支援事業に含まれる活動の責任者を務める従業員は統率力を発揮して管理下の部署や係を結束さなければならない。それらの責任者は管理下の部署や係が組織よりも自らの都合を優先させようとすることを防いだり、他の部署や係と協力しないことを是正したりしなければならない。そうして、知的支援事業の責任者たちはサポートセンターを正しく機能させなければならない。