公益追求への方向転換

(本項と「採用改革~能力重視から意志重視へ~」「さらば階級制」は企業などの組織の性質を良化し、人が多くの人と支え合う世界を作るための方策を説明しています。)

 

企業は有用な物やサービスを生み出す力を高めるために、行政機関は正当な政策を実行する力を高めるために多くの人にとって有益なことの実現を望む人を集め、その人たちに職を与えるようになるでしょう。そうして、企業や行政機関は自己の利益の追求から公益の追求へ方向転換して事業を行うようになります。知的支援事業は多くの人の仕事の能力を等しく高めます。そうして、知的支援事業は企業や行政機関が業績や年功、学業や採用試験の成績でなく、その意志に注目して人に職を与えることを可能にします。

 

企業は多くの人の好む物やサービスを生み出して供給することを、行政機関は国や地域の発展を促す政策を行うことを求められます。しかし現在、企業や行政機関の多くは自己の利益を追求しています。企業は収入を得るために物やサービスを供給しているにすぎません。行政機関は基本のサービスも、時々の情勢に対応する政策も形式的に行っているにすぎません。また、企業や行政機関の多くは人間を軽視しています。企業は従業員を、行政機関は国民、住民、労働者を粗末に扱っています。

 

企業も、行政機関も利己主義や人間軽視の姿勢を人に職を与える行為を通じて有形化しています。

 

企業は金銭を多くのことに役立つ最も価値のあるものと見なし、それの獲得を最大の目的とする営利主義の考え方を持ちます。そして、企業は事業の収入を増やすために従業員に業績を上げるように催促します。企業は従業員に報酬のよい職に進級させるという交換条件を示して業績を上げること、他の人と競争して勝つことを要求します。

 

企業は業績を上げた従業員を実際に進級させて大小の部署の管理者とします。そのとき、企業は約束したものを渡しているだけでなく、業績を上げた人は部署を指導してその業績を伸ばすこともできると期待しています。

 

行政機関はお役所仕事と呼ばれる無能の働きを行います。行政機関は国民や住民のことを気に掛けたり、彼らのために行うべきことを探したりせずに自己の都合を優先させたり、楽をしたりしながらそのような行動を法や規則に則るものとして正当化します。行政機関は仕事を決まりの通りに行うことに拘るばかりであり、サービスや効率を改善しようとしません。そうして、市役所や税務署は住民を長時間順番待ちさせ、すぐに相談を受けません。また、市役所や税務署の窓口は事情を聞いて住民を他の窓口へ案内し、たらい回しにします。また、市役所や税務署は正しい書類を作れるように助言などを行うこともなく、住民に何度も手続きを誤らせ、やり直させます。(それらの機関は大抵住民に親切に接しますが、一方でしばしば不親切に振る舞います。)

 

行政機関はお役所仕事に徹する職員を忠実であるとして評価し、年功に応じて報酬のよい職に進級させて大小の部署の管理者とします。そのとき行政機関は、経験を積んだ人は部署を指導して前例に従わせ、過去の検討を現在の活動に生かすことができると期待しています。(近年、行政機関は国や地方自治体の公務員制度の見直しを受けていくらか職員を彼の能力や業績に応じて進級させるようになりました。しかし、行政機関は無闇に職員に業績を上げさせてもそれによって行うべきことを行えるわけでありません。)

 

企業も、行政機関も求職者に採用するという交換条件を示して学業成績を上げること、採用試験に合格すること、他の人と競争して勝つことを要求します。企業や行政機関は求職者に業務を行う能力を求め、彼の持てる能力を学力などから推し量っているようです。

 

このように、企業や行政機関の多くは従業員や職員を操って自己の利益を追求する体制を築いており、社会に奉仕する姿勢に欠けています。そして、従業員や職員の多くも企業や行政機関に奉公し、保障を受けるために服従するという封建的な考え方を持ち、社会に奉仕する姿勢に欠けています。自己の利益を追求する企業や行政機関の行為、多くの人よりも在籍する組織に奉仕する従業員や職員の行為は人間の良心の要請に反しています。

 

営利主義の考え方を持つ企業は革新的な物やサービスを生み出せません。企業が誰も見たり、聞いたりしたことのない物やサービスを生み出すためには、そこに勤務する人が実現されていない有益なことを実現するための活動を始めなければなりません。しかし、企業に勤務する人は幹部職員であるか新事業を行う一部のところの従業員である場合を除けば新しい活動に取り組むことができません。多くの企業は従業員にすでに行っている活動に取り組んで業績を上げることを要求します。だから、多くの企業はなかなか革新的な物やサービスを生み出せません。そして、それらの企業の供給するものは型破りの企業の生み出す新しいものにとって代わられ、利用されなくなります。

 

営利主義の考え方を持つ企業は自らを決まり切った活動に縛り付け、時代遅れの存在となって姿を消します。

 

機能しない行政機関は国や地域の抱える問題を解決できません。

 

政府と厚生労働省は企業が従業員を働かせすぎ、労働者が働きすぎることを放置して少子化を深刻化させています。フルタイム労働者の平均年収が2016年に全国で1位の東京都、2位の神奈川県、3位の愛知県、4位の大阪府、5位の茨城県は、出生率は最下位、41位、16位、39位、32位であり、愛知県を除くと振るいませんでした。逆に、出生率が全国で1位の沖縄県、2位の島根県、3位の長崎県、3位(同率)の宮崎県、5位の鹿児島県は、フルタイム労働者の平均年収は最下位、36位、35位、44位、41位であり、振るいませんでした。人が都市に住み、生産活動に励むことと子供を産むことは矛盾しがちです。

 

全国のフルタイム労働者は2016年に平均して一週当たり47時間43分の労働を行いました。さらに、都市のフルタイム労働者は平均して長時間の通勤を行いました。多くの労働者が生産以外のことを行う余裕を失っていることは少子化の進行に小さくない影響を与えていると考えられます。そこで、政府と厚生労働省はリフレッシュ休暇を企業が従業員に気軽に与えるものとして制度化し、労働者に子供を産むことにつながる行動をとる余裕を与えるべきです。しかし、政府と厚生労働省は企業に子供の生まれた人を除く従業員を活動させたままにし、その労働時間を減らすことを求めています。(政府が2014年に告示した「行動計画策定指針」の「五1(1)労働者の仕事と生活の調和の推進という視点」。)

 

政府と厚生労働省は企業が従業員の労働時間を、労働者が自身の労働時間を調整できると安易に考えているようです。しかし現在、専門性を要する不定形の仕事が増え、多くの労働者がのめり込むように生産を行っているため、そのようなことはあり得ません。政府と厚生労働省は労働時間の削減という現実味のない改善を求めることによって企業の働かせすぎと労働者の働きすぎを放置しています。

 

そのうえ、政府と厚生労働省は企業が従業員を長時間働かせることを助長しかねない政策を行っています。以前から、労働基準監督署は企業の行動を労働法規に従うものに保つことができていません。とても多くの企業が超過勤務の賃金を支払わずに従業員を長時間働かせるようになってしまったからです。そして近年、政府と厚生労働省は労働者が一定の報酬を受け取りながら労働時間を自ら調整することを認める制度の整備に力を入れています。

 

政府と厚生労働省は働き方を労働者の裁量に委ねられるようにする意向を表明しています。しかし、彼らは企業を制度の悪用による超過勤務の賃金の合法的な踏み倒しに誘導することによって問題を隠そうとしているのかもしれません。そして、超過勤務の賃金を支払う義務を取り除く制度を設けることは企業が従業員を長時間働かせることを助長する恐れがあります。

 

働かせすぎ、働きすぎの風潮の中でも子供を産める人はいます。しかし、子供を産んだ人はしばしば仕事への復帰を制限されます。多くの市区町村の役所が保育所に空きがなく、働きたい親がそこに入れることを待たされる待機児童を発生させるからです。全国の役所は2017年に2万6081人の待機児童を発生させたことを発表しました。

 

多くの役所は誠実さを欠き、保育所に入れない子供の大部分について独自の基準に照らして待機児童に該当しないと判定します。たとえば、役所は親が遠くの施設の利用を断り、その施設が自らの基準に照らして親子の通える範囲にある場合、子供を待機児童と認めません。そうして、多くの役所は発生させた待機児童の数を小さくして発表します。2017年に発表された待機児童の数は保育所に入れない子供全体の3割にも達しませんでした。

 

少子化や地方の過疎化は働き手不足、医療保険や年金の加入者の不足を引き起こします。政府はそれらを補うために日本に働きに来る外国人を増やすことを模索しています。しかし、外国人に来てもらうことは一時しのぎの措置でしかありません。政府はまず国民が結婚したり、子供を産んだりすることと働いて活躍すること、個人として自由であることを無理なく両立させるための仕組を作るべきです。そうしなければ、少子化は止めどなく進み、政府は日本に働きに来る外国人を増やし続けることを余儀なくされます。

 

外国人がいつまでも日本に来てくれるとは限りません。日本で人が働く場合の条件は他の国と比べて優れたものでなくなっていくかもしれないからです。外国人が来てくれなくなれば、日本は働き手が不足し、経済の規模が縮小し、国や地方自治体の税収が落ち込み、社会保険が崩壊します。そうなれば、政府は国民に激しく非難されるでしょう。

 

機能しない行政機関は企業の働かせすぎと労働者の働きすぎ、企業の従業員への侵害行為、待機児童の発生などの問題を解決できません。機能しない行政機関は少子高齢化やそれが経済、財政、社会保険に与える打撃を深刻化させ、国や地域を衰退させます。

 

政府や地方の役所は災害の危険性だけは見過ごせないようです。彼らは、東日本大震災の起きた後は南海トラフ巨大地震や首都直下地震の被害の想定、防災計画の見直し、建物の耐震化、被災者の支援の準備など、災害の発生への備えを積極的に進めています。(ただし、政府や地方の役所は災害に対処する方法を国民や住民に十分に教えていません。)

 

企業も、行政機関も利己主義や人間軽視の姿勢を改めることができます。企業は多くの人の好む物やサービスを生み出して供給するように、行政機関は国や地域の発展を促す政策を行うようになれます。

 

企業は有用な物やサービスを生み出す力を高めるために、行政機関は正当な政策を実行する力を高めるために事業に参加して多くの人にとって有益なことを実現する意欲を持つ人に恰好の機会と必要な権限の付随する職を与えるようになるでしょう。企業も、行政機関も人に職を与える際に彼の意志に注目するようになり、業績や年功、学業や採用試験の成績にさほど注目しなくなります。それでも、知的支援事業が行われれば、従業員や職員の業務を行う能力は低下しません。多くの従業員や職員はサポーターの支援を受け、十分な能力を持って業務を行うことができます。

こうして、企業や行政機関は公共心を手に入れ、公益を追求して事業を行うようになります。企業や行政機関は多くの人に利益を与えたいと思う人に職を与えることによって行うべき活動を行い、社会に奉仕し、成果を上げるようになります。

 

企業は部署の管理をすでに行っている活動の目標や計画を見直した人、新しい物やサービス、物やサービスの新しい機能の開発や新しい販路の開拓などを企画した人に任せるようになります。行政機関は部署の管理を旧来の政策を行う計画を見直した人、情勢に対応する新しい政策を行う計画を立てた人に任せるようになります。企業も、行政機関も活動を刷新したり、新しく起こしたりするために部署の管理者を選ぶようになります。

 

そして、企業や行政機関は業績を上げた人や経験を積んだ人を生産現場の職から管理職に、組織の小さな部分を管理する職から大きな部分を管理する職に進級させるでたらめの慣行を廃止します。さらに、企業や行政機関は従業員や職員の労働の報酬を就いている職が生産現場のものであるか、管理するものであるかに拘らず、それぞれの業績に応じて支払うようになります。企業や行政機関は優れた業績を上げる営業マン、技術者、窓口の担当者に並の業績しか上げない管理者よりも高額の報酬を支払うようになります。

 

企業や行政機関が意志のある人に職を与えれば、従業員や職員は全ての人と支え合うために自発的に働くことができます。また、従業員や職員は社会の要求を満たすために自発的に挑戦することができます。

 

法律上の会社は私的な存在であり、利益を上げるために企業を運営するにすぎません。しかし、現実の会社や株主は企業が公益を追求して事業を行うようになれば社会的責任を自覚し、それを果たすためにすでに行われている事業の利益を新しく行われる事業の資金に転じる活動を行うようになるでしょう。そうして、多くの会社や株主は利益を上げるために事業に投資するという考え方を捨てます。言い換えると今後、人々は資本主義の考え方を捨てます。


企業などの組織が意志のある人を登用したり、登用した人を待遇したりする方法は「採用改革~能力重視から意志重視へ~」および「さらば階級制」の項が詳しく説明しています。私は「さらば階級制」に説明した方法をサポートセンターの人事に適用するものとして考案しました。しかし、それは多くの組織の人事に適用することができます。

>>「採用改革~能力重視から意志重視へ~」

>>「さらば階級制」


<補足>

上記のフルタイム労働者の県別や全国の平均年収、平均労働時間、平均通勤時間、各県の出生率、全国の待機児童その他の入所待ち児童の数は以下の資料に基づいています。

 

・独立行政法人統計センター発表

「性、都道府県別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(男女計)」(2016年)

 

・厚生労働省発表

「平成28年人口動態統計(確定数)参考表(都道府県別順位)」

「保育所等関連状況取りまとめ(平成29年4月1日)」

 

・総務省統計局発表

「曜日,男女,従業上の地位,勤務形態,行動の種類別総平均時間(有業者)-全国,都道府県」(2016年社会生活基本調査、第68-4表)